HOLISTIC HEALTH JOURNAL

ホリスティックヘルス ジャーナル

介護の悩み

褥瘡と薬のキホン

高齢者が増加の一途をたどり、日本では超高齢社会に突入しています。そのような中、高齢者医療における日常の業務で褥瘡患者さんへ遭遇する機会も少なくありません。ということで、今回は褥瘡をテーマに記載してみたいと思います。

 

褥瘡とは?

 

日本褥瘡学会による褥瘡の定義

「身体に加わった外力は骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下、あるいは停止させる。この状況が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り褥瘡となる。」となっております。

簡単に書くと、褥瘡は同じ部分が長時間圧迫されることで圧迫している部分に血が流れにくくなり、その部分に酸素や栄養が届きにくくて皮膚が死んでしまうイメージです。

一般的には「床ずれ」と言ったりもします。高齢者に関わっているとよく耳にする病気でしょうか。しかし、加わった外力ということでは圧迫だけではなく、ズレを生じることでも皮膚がやられてしまいますので、若い人でも褥瘡になる可能性はあります。テニスや野球などでできるマメも褥瘡の仲間みたいなものらしいです。

では高齢者ではなぜ褥瘡が問題になるか?です。そもそも私たちは、同じ部分に力がかかり続けないように無意識のうちに動きます。例えば、椅子に座ったり正座していても、少し動いたりして座りなおしたり、睡眠中でも寝返りして体の一部が圧迫されないような対策を無意識でしているわけです。しかし、脳梗塞などで体を自分の意志で動かせなくなってしまった患者さんは、ある部分が圧迫され褥瘡になりやすくなります。

また圧迫だけでなく、ベッドのマットレスや車椅子のクッションなどと皮膚の摩擦やズレ(皮下組織のゆがみ)が生じることでも褥瘡になる可能性もあります。特に皮膚や筋肉が少ない痩せた人(栄養状態が悪い人)は褥瘡になりやすいといわれます。なので、寝たきりで痩せている人は骨が突出している部分や腰の部分、かかとなどが圧迫されて褥瘡ができる可能性が高いでのす。また普通は圧迫されると痛みを感じます。痛みというのは防御反応の一つですから、痛みで気づくことができれば対応可能な場合もあるでしょう。しかし、麻痺などで痛みを感じにくい人ではいつの間にか褥瘡が発生していることもあります。もちろん高齢者だけではないでしょうし、例えばパラリンピックの選手の中にもきっと褥瘡ができる人とかいるでしょうね。競技を見ていると激しいですし、ズレとかすごそうですから。

 

褥瘡のステージ分類

 

褥瘡には、軽い褥瘡や重度の褥瘡などその過程にも段階があります。

イメージ的には、まずは皮膚が赤みを帯びて、水ぶくれやアザができ、皮膚が破ける、もっとひどい場合は肉がえぐれている場合もあります。私たちが経験する擦り傷とかをイメージすると、外側から悪くなる感じかと思います。実際に皮膚が赤くなっていないかを定期的に確認することが重要です。

一方で、皮膚が赤いと段階的にはまだ褥瘡の序盤と思いがちです。しかし、皮膚側ではなく、骨側から褥瘡ができる場合もあります。そのような場合、皮膚が破れたら深い褥瘡(ポケット:穴があいていた)だった、ということもあります。皮膚の赤みが続いているというのは軽視できないですね。ということで、褥瘡の浅い深いなどを示した褥瘡のステージ分類も軽く紹介します。

以下のような分類があります。

代表的なものがNPUAP(米国褥瘡諮問委員会:National Pressure Ulcer Advisory Panel)の提唱するステージ分類です。他にも分類があるみたいですが、今回はこの分類で話を進めます。

 

 

 

画像引用元:日本褥瘡学会編.褥瘡予防・管理ガイドライン.照林社.2009

 

色々書いておりますが、簡単に書くと、

DTI疑い

「Deep Tissue Injury」の頭文字をとってつけられた名前で、訳すと深部組織に生じた傷といった意味で、骨の側から褥瘡ができて皮膚が破けたら深いというのを疑う時期

ステージⅠ

圧迫を減らしても赤みがなくならない、でも皮膚は破れていない時期

ステージⅡ

赤くなって、かつ水ぶくれがあったり硬くなったり、軽く破れてしまった時期

ステージⅢ

破けていてかつ浅い穴ができたり、ジュクジュクしていたり、菌が悪さをして膿ができたりしている時期

ステージⅣ

筋肉や骨まで到達しているくらい傷が深くて、ジュクジュクしていたり、菌が悪さをして膿ができている時期(3よりひどい)

 

といったように分けられます。

ステージⅠをみると、「赤いだけで?」と思うかもしれませんが、赤いままなのも立派な褥瘡です。先ほども書きましたが、もしもDTIであれば、皮膚が破れたら深い穴があいていたってこともありますからね。

加えて、分類の中で主にステージⅢやⅣではその後の治癒過程も分類されています。

どう治っていくかという考え方です。

基本的に褥瘡の治癒過程は、黒色期→黄色期→赤色期→白色期という感じで進みます。それが以下のような感じになります。

 

イメージとしては、例えば、皆さんが怪我をして、すりむいて、かさぶたが出来て、それがはがれて、だんだん良くなる的な感じでしょうか。なので、治療としては、黒くなった壊死組織を取り除く、感染などで柔らかくなった黄色い壊死組織を取り除く、赤い肉が盛り上げて、最後に白い皮膚を作るって感じです。その時々で菌が悪さをしていたり、傷口から浸出液が出ていたり(傷口がジュクジュクする)、肉がでこぼこに盛り上がってきたりするので、傷の状態によってどんな特徴を持つ薬を使うかを考えます。

あ、でも、まずは治療として、圧迫を減らしてあげるとか、栄養をつけるとか、オムツなどで蒸れないようにするだとか、定期的に体位を変えてあげるとか、ベッドのマットレスを考えるなど色々ありますね。もちろん褥瘡の治療薬もありますが、補助的な役割といっても過言ではないと思います。そんな褥瘡治療薬にもそれぞれ特徴というものがありますから、それだけでも知ってもらえるように記載していきましょう。

 

薬についての説明

 

では薬の説明ですが、院内の採用薬では、以下の5種類の薬になります。

「ゲーベンクリーム」「カデックス軟膏」「イソジンシュガーパスタ」

「アクトシン軟膏」「プロスタンディン軟膏」

治癒過程を考えますと、まずは黒色期と黄色期では肉が出てくるのに邪魔な壊死組織を取り除かないといけません。そして赤色期、白色期で肉を盛り上げ、皮膚で覆うといった感じです。上記の薬は2列になっていますが、簡単に言うと上の段が壊死組織を取り除いたり、感染を治療する薬、下の段が肉を増やし皮膚を作る薬になります。

では、「ゲーベンクリーム」、「カデックス軟膏」の壊死組織を取り除くという薬と、「イソジンシュガーパスタ」をもう少し細かく、それぞれについて書いてみます。

 

 
 ゲーベンクリーム : 主に黒色期~黄色期に使用
銀イオンを含んでいる薬剤で抗菌作用のあるクリームになります(銀に殺菌効果あり)。

クリームなので傷から出る滲出液は吸い取らずに水分を傷口に与えるのが特徴です。

感染していて滲出液が少ない褥瘡(ジュクジュクしていない傷)に適しています。

乾燥した壊死組織に水分を加え、取り除きやすくする作用もありますね。

 

 カデックス軟膏  : 主に主に黒色期~黄色期のジュクジュクした褥瘡に使用
ヨウ素をデキストリンポリマー(ビーズみたいなもの)にいれた軟膏になります。

デキストリンポリマー(ビーズみたいなもの)で浸出液を吸い取って、ヨウ素で殺菌するといった作用です。ですので、感染があって、滲出液が多い褥瘡(ジュクジュクした傷)に適しています。しかし、ビーズのようなものが褥瘡のポケットに残りやすいので洗い流すのが困難な褥瘡には使いにくいかなと思います。また、ヨウ素が入っていますので酸化力による殺菌作用はありますが、酸化力ゆえの細胞毒性(障害)もありますので、使い続けると治癒に必要な生体細胞も傷つけてしまい、治りが悪くなることがあります。

 

 イソジンシュガーパスタ : 主に黒色期~黄色期のジュクジュクした褥瘡に使用
ヨウ素をデキストリンポリマー(ビーズみたいなもの)にいれた軟膏になります。

デキストリンポリマー(ビーズみたいなもの)で浸出液を吸い取って、ヨウ素で殺菌するといった作用です。ですので、感染があって、滲出液が多い褥瘡(ジュクジュクした傷)に適しています。しかし、ビーズのようなものが褥瘡のポケットに残りやすいので洗い流すのが困難な褥瘡には使いにくいかなと思います。また、ヨウ素が入っていますので酸化力による殺菌作用はありますが、酸化力ゆえの細胞毒性(障害)もありますので、使い続けると治癒に必要な生体細胞も傷つけてしまい、治りが悪くなることがあります。

 

以上が皮膚にできた邪魔な壊死組織を取り除いたり、感染を治療する薬になります。例えば感染したまま皮膚が盛り上がったら、菌が体の中に残り、残った菌がさらに悪さをしてしまう可能性があるので感染には要注意です。また、褥瘡の薬に関しては「水分が多い傷」か「水分が少ない傷」で選んだりするので傷がどんな状態なのかを見る事が大事です。そもそも、皮膚の傷はカラカラでもジュクジュクでも治りが悪く、ちょうどに湿った感じがいいのです。例えば、私たちが膝を擦りむいた時、以前ならリバテープ貼っていたのに最近ではキズパワーパッドとかですよね。あれは傷口にある程度の湿度を保つので治りが早くなるみたいです。加えて、貼る前には傷口が感染しないようによく洗いますよね。そんな感じで褥瘡処置ではよく洗浄することもまた大事です。

次に、「アクトシン軟膏」「プロスタンディン軟膏」 の皮膚を盛り上げる薬について記載しましょう。

 

 アクトシン軟膏 : 主に赤色期~白色期に使用
末梢血管を拡げて血流障害を改善し、肉芽形成や表皮形成などを促進する薬です。また、基剤に使用されるマクロゴールは、滲出液の吸収に優れているほか、洗浄が容易であるという特徴もあります(ジュクジュクした皮膚に使えて処置で洗いやすい)ただし感染に対しては効果が低いので感染の危険がある褥瘡には不向きです。

 

プロスタンディン軟膏:ステージⅡや、赤色期~白色期に使用
褥瘡部分の局所の血液の流れをよくして、皮膚を作る効果が特徴です。

ただし、感染に対しての効果は低く、滲出液が多くても比較的大丈夫な薬剤です。

肉を作るというよりもむしろ皮膚を作るという方を期待する薬になります。

ちなみに使用量として1日10gを超えないこととなっています。これは塗布量が増えるにつれ、血圧や脈拍異常などの副作用に注意が必要となってくるためです。

 

色々書きましたが、今回の内容は、褥瘡の薬に関しての基礎内容を書いております。

薬に関しては他にも色々と難しい話もありますが、褥瘡患者さんを増やさないように、そして一人でも減らせることが出来ればいいですね。

 

*記事の内容は「簡単に分かりやすく」を目的に作っています。ですので、これがすべてではないのでご了承ください。ご質問等ございましたら最寄りの薬剤師へ質問いただければ幸いです。

 

最後に一覧表を載せておりますので、興味のある人はご覧ください。

 

 

森 直樹

森 直樹(もり なおき)

現職:御幸病院 薬局主任

薬剤師になり約20年ほど高齢者の薬物療法に携わってきました。2023年から御幸病院へ入職し現在に至ります。病院外の活動としては、熊本県薬剤師会代議員、熊本県病院薬剤師会理事、医療法人協会薬局長会の会長など務めさせていただいております。飲むことも難しい高齢の患者さんに薬剤師としての寄り添い方を日々考えながら仕事に取り組んでいます。薬のことで困ったことがあればぜひご相談ください。

資格

薬剤師、医療環境管理士、日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師、医薬品安全性専門薬剤師