社会の価値観は、コロナ禍を経験する中で大きく変化しました。
人々の関心は、「病気をしないこと」「長く生きること」だけでなく、「自分らしく生きること」「安心して暮らせること」へと広がっています。こうした変化を背景に、健康のあり方や医療・介護に求められる役割も、生活や人生そのものに寄り添う形へと進化してきました。
私たちが日々向き合っている利用者の皆さまの暮らしにおいても、健康づくりは、運動や食事、定期受診といった要素だけで完結するものではありません。実は「趣味を持つこと」も、心と体の健康を支える大切な要素の一つです。特に高齢期や介護が必要な状況においては、趣味の有無が生活の質に大きく影響することを、現場で実感しています。
趣味は「その人らしさ」を守る
年齢を重ねたり、病気や障がいを抱えたりすると、「できなくなったこと」に目が向きやすくなります。こうした体験は自己評価の低下や意欲の減退につながりやすいことがわかっています。
一方で、趣味は「今もできていること」「楽しめている自分」に目を向ける機会を与えてくれます。上手・下手や成果は関係ありません。「好きだからやる」という行為そのものが、自尊心や心の安定を支え、その人らしい生き方を守る力になります。
家族・介護者にとっての趣味の意味

介護をしているご家族からは、「安全のためにやめさせた方がいいのでは」「無理をさせたくない」という声をよく耳にします。確かに、見守りや配慮は欠かせません。しかし、趣味を完全に制限してしまうと、その人の楽しみや役割、生活の張りまで失われてしまうことがあります。
趣味は、介護される側だけでなく、介護する側にとっても大切なものです。趣味の話題が会話のきっかけになったり、一緒に穏やかな時間を共有できたりすることで、介護の関係性が「支える・支えられる」だけでなく、互いを尊重し合う関係へと広がっていきます。
脳と心へのよい刺激

読書や手芸、将棋、音楽などの趣味は、自然に脳を使い、集中力や記憶力を刺激します。心理学的にも、こうした活動は気分の落ち込みや不安の軽減につながることが知られています。
特に「夢中になれる時間」を持つことは、ストレス反応を和らげ、感情の安定を助けます。短い時間でも構いません。「楽しめている」という感覚そのものが、心の健康を支えます。
音楽という趣味の力

私自身、ギターを弾いたり、歌ったりすることを趣味にしています。忙しい日常の中でも、音楽に触れる時間は気持ちを切り替える大切なひとときであり、自然と呼吸が深くなるのを感じます。
音楽は、体を大きく動かさなくても楽しめる趣味であり、気分転換や感情表現の手段としても有効です。歌うことは口や呼吸の運動にもなり、聴くだけでも心を落ち着かせる効果があります。施設の現場でも、音楽が笑顔や会話を引き出す場面を数多く目にしてきました。
無理なく続けるために大切なこと

健康のための趣味は、「頑張るもの」ではありません。
・以前好きだったことを、少しだけ再開する
・体調に合わせて、回数や時間を調整する
・できない日は、無理をしない
こうした柔軟な姿勢が、長く続けるためのポイントです。私たちも、ご本人の思いを大切にしながら、家族や地域と連携し、無理のない形で趣味や楽しみを支えていきたいと考えています。
おわりに
医療や介護は、単に治す・支えるだけの存在ではありません。その人の人生に寄り添い、その人らしい暮らしを支え続けることが、これからの役割だと私たちは考えています。
趣味は、心・体・人とのつながりを同時に支えてくれる、身近で大切な健康資源です。変化の大きい時代だからこそ、私たちは情報発信力と法人としての総合力を活かし、地域の皆さまが安心して自分らしく暮らし続けられるよう、これからも寄り添い続けていきます。






