先日、帯状疱疹ワクチンについて質問されることがありました。またTVのCMなどで帯状疱疹を見聞きすることもありますので、今回は「帯状疱疹のワクチン」についてまとめます。
帯状疱疹とは
まず、帯状疱疹は、子供のころに感染したかもですが「水ぼうそう(水痘)」と同じ水痘・帯状疱疹ウイルスというウイルスが体の中で活性化し症状を引き起こす皮膚の病気です。
通常は体の左右どちらかの神経に沿って、痛みを伴う赤い斑点と水ぶくれがたくさん集まって帯状に生じるので、帯状疱疹と言います。まずはピリピリ、チクチク、ズキズキといった神経痛がでて、数日から1週間後に赤い斑点がみられるようになり、水ぶくれができ、水ぶくれが破れてただれた状態(びらん)の後、かさぶたができて症状がおさまるといった経過をたどります。治療することで皮膚症状は3週間前後で治まると言われます。
それで終わればいいのですが、皮膚症状がおさまったあとも痛みが継続してしまうケースもあります。どのくらい続くかは人によって異なりますが、一般的には3~6ヵ月以上、場合によっては年単位で痛みが継続する場合もあります。帯状疱疹の合併症の一つとされていて、「帯状疱疹後神経痛(PHN:Post Herpetic Neuralgia)」と言われます。50歳以上の患者さんの約2割がPHNへ移行するとも言われますし、年齢が高くなればPHN移行率も高くなるそうですので早期発見・早期治療が重要になります。他にも、ウイルスによる角膜炎、結膜炎といった眼の合併症、顔面神経麻痺、難聴など重篤な合併症もあります。頭頚部の帯状疱疹の場合、特に注意が必要となります。
どうやって感染するのか?
ほとんどの人はもう感染して、体内にこのウイルスを持っていると思われます。子供のころに感染した水ぼうそうと同じウイルスが、水ぼうそうが治った後も体内の神経で症状を出すことなく潜み、加齢や疲労・ストレスなどによって免疫力(体の中で微生物と戦う力)が低下するとウイルスが再び目覚め、帯状疱疹として発症する仕組みです。日本人成人の90%以上はこのウイルスが体内に潜伏していますので、その人たちは少なからず帯状疱疹を発症する可能性があることになります。80歳までに約3人に1人が発症するともいわれています。また、疲労・ストレスなどによる免疫力の低下から帯状疱疹を発症することもあります。一方で、「帯状疱疹の水ぶくれなどを触って感染することがあるか?」と以前の病院で質問されたこともありますが、水ぼうそうになったことがある人は感染しません(もう体の中にウイルスがいますので感染しているとも言えますが)。でも水ぼうそうになったことがない人では感染する可能性があり、主に接触感染になります。
治療薬も書きたいのですが、ワクチンの話題なので省きます。
帯状疱疹ワクチンとは
さて、「日本人成人の90%以上はこのウイルスが体内に潜伏しているのなら抗体はあるのでは?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。
子供の時に水痘・帯状疱疹ウイルスに感染した人は、このウイルスに対する免疫を持っています。しかし獲得した免疫は年齢とともに弱まり、帯状疱疹を発症してしまうリスクが高くなる傾向があります。さらに、すでに帯状疱疹になった人でも、体の免疫力が低下すると再び帯状疱疹になる可能性があります。ですので、ワクチンを接種して免疫の強化をしようというのが帯状疱疹予防接種の目的になります。
現在、帯状疱疹の予防で使えるワクチンは2016年に認可された「弱毒生水痘ワクチン」と2020年に認可された「シングリックス」の2種類があります。同じようなワクチンではなく、色々異なる部分があります。
「弱毒生水痘ワクチン」
小児に使用する水痘ワクチンと同じもので、弱毒化された生きたウイルスが含まれている生ワクチンです。2016年から帯状疱疹予防として認可されています。
用法:1回接種で終了。
効果:60歳以上を対象としたアメリカの調査では・・・
帯状疱疹の発生率が51.3%減少
帯状疱疹後神経痛の発生率も66.5%減少
帯状疱疹の重症度も61.1%低下
持続期間:一般的に5年程度ともいわれますが5~10年程度というデータもあり。
副反応:シングリックスに比べて少ない。接種後1~3週間後の発熱や、2~3%に全身性の水痘様発疹等。
ただし、生ワクチンですので以下の人は投与してはいけないことになっています。
- 化学療法やステロイドなど免疫を抑える治療をしている方
- 免疫力が落ちている方(HIV感染)
- 妊娠していることが明らかな方
- 水痘ワクチンによる強いアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を起こしたことがある方
- カナマイシン、エリスロマイシンの抗生剤にアレルギー反応を起こした方(ワクチンにこれらの抗生剤の成分が入っています)
また、ワクチン接種後2か月間は妊娠を避けていただく必要があります。
価格:9000円位/1回(病院によって異なります)
「シングリックス」
遺伝子組み換え法(ウイルス表面タンパクの一部を抗原とした組換えワクチン)の不活化ワクチンです。(2020年に認可されました)
用法:2か月間隔で2回接種して終了。
効果:弱毒水痘生ワクチンに比べて帯状疱疹を予防する効果が高いのが特徴。
50歳以上で97.2%・70歳以上で97.9%の発症予防効果。
別の試験での70歳以上の16,596例の解析によると・・・
帯状疱疹に対するワクチン有効率は91.3%
帯状疱疹後神経痛への有効率は 88.8%(平均3.2年間の観察期間中)
持続期間:8年後の予防効果が 84.0% 以上に保たれている。
副反応:接種後7日間に起こった主な副反応
注射部位の痛み78%、赤み38%、腫れ26%
全身性の副反応では筋肉痛40%、疲労39%、頭痛33%、悪寒24%、発熱18%、
胃腸症状13%。7日以内に多くの副反応は弱くなっていく。
価格:45000円位/2回接種(病院によって異なります)
以上の違いがありますが、詳しくは最後の一覧表をご覧ください。
まとめ(私見含む)
まとめてみますと以下のような感じかなと思います。
・帯状疱疹・帯状疱疹後神経痛になる可能性をとにかく減らしたい人・・・シングリックス
・とりあえず予防効果が長いワクチンがいいなという人・・・シングリックス
・生ワクチンはなるべく避けたいなという人・・・シングリックス
・副反応が少ない方がいいなという人・・・弱毒生水痘ワクチン
・2回も注射より1回で終わらせたいという人 ・・・弱毒生水痘ワクチン
・とりあえず打ちたいけど費用が少ない方がいいなという人・・・弱毒生水痘ワクチン
他にも、一度は弱毒生水痘ワクチンを接種して、5年以降にシングリックスを摂取することも可能だとは思います。最終的にシングリックスを接種するなら最初から接種した方がいい気もしますがそれぞれの考え方次第ですね。
結局は、効果や持続性の面で大きく異なる部分とコストの面との兼ね合いです。
帯状疱疹は、私たちの中でおよそ90%の人がウイルスを持ち、80歳までに日本人の30%くらいの人が帯状疱疹を経験すると推定され、50歳以上で帯状疱疹になった人の約20%が帯状疱疹後神経痛を引き起こします。
その予防としてワクチンを考えるときに効果でいえば50~60%のワクチンか90%のワクチンか、それに対してのコスパがどうかなどで接種を考えることになりますね。
ということで最近増えつつある?帯状疱疹とそのワクチンに関して書いてみました。
皆様の何かのお役にたてることができれば幸いです。
興味のある人は以下の比較表もご覧ください。
参考:各インタビューフォーム、各メーカー資料