目次
- 加齢によるもの忘れ
- 認知症高齢者の生活に伴うリスク
超高齢社会の進行は、必然的に認知症高齢者数の増加をもたらします。
2025年には、471万人とも700万人とも推計されています。
加齢によるもの忘れ
加齢によるもの忘れは、朝食メニューなど体験したことの一部を忘れるもので、もの忘れの自覚はあり、極めて徐々にしか症状の進行はないとされています。
一方、認知症によるもの忘れは、体験したこと自体を忘れてしまい、症状の進行とともに、もの忘れの自覚も無くなっていくので、日常生活に大きな支障が生じてしまいます。
認知症高齢者の生活に伴うリスク
認知症高齢者の生活には大きなリスクを伴います。
認知症高齢者をどう守っていくのか、という課題だけでなく、認知症高齢者に起因するリスク負担を社会がどう分け合っていくべきなのか。この課題を明らかにしたのが、認知症鉄道事故裁判(最高裁判決2016年3月)でした。
2007年12月、認知症高齢者(91歳:要介護4)が駅構内の線路内に立ち入り、列車に衝突して死亡しました。この事故により、約2万2千人が他社路線への振替乗車を行うなどの影響が生じました。鉄道会社は、同居していた妻(事故当時85歳:要介護1)と週末に実家に戻り介護していた長男に、約720万円の損害賠償の支払いを求めました。
第1審(名古屋地判2013年8月)では、損害賠償の全額が認められました。第2審(名古屋高判2014年4月)では、妻の責任だけが認められ損害額が360万円とされました。そして最高裁は鉄道会社の請求を棄却しました。認知症高齢者による防ぎきれない事故までは家族が責任を負わないとする初めての判断とされ、認知症高齢者の介護を家族だけに負わせているという社会の現状が浮き彫りにされました。
この判決を受け、認知症の人による事故の民間の保険商品が広がり、公費で保険料負担する自治体も増えました。しかし、ひとり一人がいずれ自分も認知症になる可能性を覚悟し、目の前の人を見守るという意識を持つ必要があります。社会制度の整備を含め、超高齢社会を地域で支え合って乗り切るための行動が求められています。
(初出:ぎょうせい・月刊「税」・2024年9月号)