
スーパーの野菜コーナーに並ぶ新じゃが、枝豆、アスパラガス——。
5月になると、棚の色がぐっと鮮やかになります。それと同時に、私たちの「食への問い」もまた、少しずつ変わってきています。
「これってどこで育ったの?」「この野菜、体にどんなふうにいいの?」。
毎日の食事に、以前よりずっと丁寧に向き合うようになった方が増えているのではないでしょうか。
今年の5〜6月、食と農にまつわるトレンドを読み解きながら、食卓をもう少し豊かにするヒントをお届けします。
今、わたしたちの「食への意識」はどこへ向かっているのか

2025年の食トレンドを一言で表すなら、「健康志向×ウェルビーイング」。これは複数の調査機関が一致して示す方向性です。身体的な健康だけでなく、精神的・社会的な豊かさを含むとされWHO憲章内で定義された「ウェルビーイング(well-being)」という概念が、食の選択にも深く影響を与えるようになりました。
物価の上昇が続く中でも、健康につながる食材の需要は落ちていません。むしろ、「何を食べるか」に時間をかけ、「なぜそれを選ぶのか」を自分なりに考えている人が増えている印象があります。値段だけでなく、産地、栄養価、生産方法——食の選択基準が、ここ数年でぐっと多層になってきたように感じます。
「ウェルパ志向」という新しい言葉も生まれました。消費した時間やお金に対して、どれほど心身の豊かさを感じられたか——食においても、そのパフォーマンスを問う時代になっているのです。
また、「調理のプロセスを楽しむ(プロパ志向)」というキーワードも注目されています。完成した料理だけでなく、野菜を洗う、刻む、火を入れるといった一連の工程を、忙しい日常の中の「丁寧な時間」として捉える人が増えているのです。これは単なる料理ブームではなく、自分の暮らしを手触りある形で取り戻したいという気持ちの表れかもしれません。
5・6月の旬野菜——この季節だけのおいしさを知っていますか?

5〜6月は、食材の移ろいがもっとも美しい季節のひとつです。
春の山菜が終わりを迎える「名残」と、夏野菜が顔を出す「走り」が重なり合うこの時期は、日本の食の豊かさを特に感じさせてくれます。
新じゃがいも(5〜6月)
鹿児島・長崎など九州が主産地。皮ごと食べられるやわらかさが魅力で、ビタミンCはデンプンに守られているため、加熱しても壊れにくいのが特徴です。塩ゆでにするだけでも、旬の甘みが際立ちます。
スナップエンドウ・きぬさや(4〜6月)
たんぱく質・ビタミンB群・食物繊維をバランスよく含む優秀な野菜です。生で楽しめるのはこの季節だけ。甘みと歯ごたえを活かして、さっと炒め物や和え物にするのがおすすめです。
アスパラガス(4〜6月)
北海道産の朝採れが特においしい季節。ビタミン類やアスパラギン酸が疲労回復をサポートしてくれる、初夏の定番野菜です。シンプルにグリルするだけで、素材のうまみが引き立ちます。
らっきょう(5〜6月が最盛期)
旬の期間が短く、鳥取の「砂丘らっきょう」はGI(地理的表示)登録のブランド品として知られています。食物繊維が豊富で腸活にも注目される食材。甘酢漬けをひと瓶仕込むだけで、夏の食卓がぐっと豊かになります。
ミョウガ(6〜7月)
ミョウガの香り成分「アルファピネン」は食欲増進・血行促進に働くとされています。夏の食欲が落ちやすい季節の、心強い薬味野菜。薄切りにして冷奴や冷麺にのせるだけで、一気に食卓に清涼感が生まれます。
ブロッコリー(通年・2025年注目野菜No.1)
農業新聞の農畜産物トレンド調査で2025年の注目野菜1位を獲得。2026年度から国が定める「指定野菜」に格上げ予定とあって、生産・需要ともに拡大が見込まれています。手軽に調理でき栄養価が高いことが、幅広い層に支持される理由です。
「旬のものを食べる」ということは、単においしいだけでなく、地域の農業を支えることにもつながっています。旬の時期は収穫量が多いため価格が安定しやすく、輸送距離が短い地元産を選びやすくもなります。それはそのまま、生産者との距離を縮めることにもなるのです。
2025年の食卓に広がる「せいろ蒸し」ブームと、その先にあるもの

今年の食トレンドで最も驚くべき現象のひとつが、「せいろ蒸し」の爆発的な広がりです。あるレシピサービスの調査によると、「せいろ蒸し」の検索数は前年比635.8%という驚異的な伸びを記録。SNSでは「#せいろ飯」が社会現象化しました。
なぜせいろがここまで支持されているのか。その理由は、現代の暮らしへの「完璧な答え」がいくつも揃っているからだと思います。
まず、時短なのに本格的という点。食材を切って並べてしまえば、あとは待つだけです。複数のおかずを同時に仕上げることができ、忙しい平日の夕飯でも「手をかけた感」が自然と生まれます。
次に、油いらずでヘルシーであること。蒸すという調理法は余分な脂を使わず、食材本来のうまみと栄養をギュッと閉じ込めます。カロリーが気になる方にも取り入れやすい調理法です。
そして、食卓にそのまま出せる特別感。木のせいろは、それだけで食卓が絵になります。「映える」だけでなく、立ちのぼる湯気と香りで、食事の時間がちょっとした豊かな体験になります。
最後に、野菜のおいしさが際立つこと。特に旬の野菜は、蒸すことで甘みと香りが引き立ちます。新じゃがやアスパラ、ブロッコリー——せいろとの相性は抜群です。
フライパンにクッキングシートを敷いて代用する「フライパン蒸し」も話題になっており、せいろを持っていなくても試せる手軽さから、SNS上でレシピが続々と投稿されています。
この「せいろ蒸し」ブームの底流にあるのは、「シンプルな調理で素材を活かしたい」という気持ちではないでしょうか。それは同時に、素材の質——つまり野菜そのものの力——への関心の高まりとも、深いところで重なっています。
腸活・美活の観点から見直す、夏前の食習慣

30〜40代の女性にとって、食と美容・健康は切っても切れない関係です。今年の食トレンドでも「美活腸育」というキーワードが注目を集め、腸内環境を整えることへの関心がますます高まっています。
5〜6月の旬野菜は、実は腸活にも嬉しいラインナップです。らっきょうに含まれる豊富な食物繊維、ブロッコリーに含まれるスルフォラファン(解毒・抗酸化作用が期待される成分)、ミョウガの香り成分による血行促進——季節の食材を取り入れることが、自然と体を整えることにもつながっていきます。
発酵食品との組み合わせも注目されています。旬野菜を塩麴や味噌で漬けた「簡単漬け物」は、食物繊維と発酵の相乗効果が期待でき、腸活としての取り入れやすさも魅力です。らっきょうの甘酢漬けやぬか漬けは、この季節ならではの手仕事として、ぜひ一度試してみてください。
また、2025年上半期のレシピトレンド1位となった「夢中漬け(無限漬け)」も見逃せません。旨だれに食材を漬けるだけという手軽さで、野菜をたっぷり食べられる上に、下ごしらえ感覚で腸活メニューが出来上がります。
忙しい毎日の中で「食を丁寧にする」ことへの焦りを感じる必要はありません。せいろを使う、旬の野菜を選ぶ、漬け物を一品加える——そんな小さな積み重ねが、気づけば自分の体と心を支えてくれています。
「食べること」を、もう少し丁寧に選ぶために
食の情報は毎日のようにあふれています。「◯◯がいい」「◯◯は控えて」——そんな情報の洪水の中で、何を信じていいかわからなくなることもあるかもしれません。
でも本当に大切なのは、シンプルなことかもしれません。旬のものを食べる、できるだけ素材に近い形で食べる、誰が育てたかを少し気にしてみる。それだけで、食の体験は確実に豊かになっていきます。
2025年の食トレンドが示しているのは、「効率だけを追い求めない食のスタイル」への回帰です。調理のプロセスを楽しむ、食材の背景に思いを馳せる、食卓を誰かと共有する——それはすべて、暮らしの中に「ちょっと立ち止まる時間」を取り戻すことと、同じことではないでしょうか。
この5〜6月、まずはスーパーや道の駅で旬の野菜を手に取ることから始めてみませんか。それがきっと、食と農を近くに感じる、最初の一歩になるはずです。






