
2024年の秋からみゆきの里にお世話になり、1年半が経とうとしています。和楽の厨房で開催される「いのちを支えるスープの勉強会」に度々参加させていただき、その美味しさに魅了されております。
ご存じのように、みゆきの里では、料理研究家・辰巳芳子先生の「いのちを支えるスープ」の理念(素材の生命力を最大限に引き出し、作り手の“真心”、“思いやり”が湯気の先に宿るこのスープを、弱った身体と心を支える“治癒の食”に!さらには人生のあらゆる段階を支える家庭料理の礎に据える)に共鳴し、鎌倉の辰巳先生のご自宅教室で伝えられたレシピを、山本総料理長(元「玉の湯」総料理長)に学び、2008年より季節の素材を生かしたスープの献立を患者様・ご利用者様へ提供し続けています。
レシピの行間から学ぶ
勉強会のはじめに、当日のスープの素材の特徴、栄養、扱い方などを教えてくださいます。季節を味わい、旬の命をいただくというありがたい気持ちになります。HPには勉強会で用いた素材の解説とレシピが、惜しげもなく紹介されています。が、いざ勉強会に参加してみると、そのレシピの行間(料理長の言葉のメモ)にこそ厳しくも深い料理の神髄があると気付きました。
素人が料理の基本を知らなかっただけかもしれませんが、みゆきの里の管理栄養士・栄養士・調理師さん達が日頃の業務で当たり前のようになさって語られないこと、つまり、“料理が単なる作業ではなく、気遣いと愛情の実践である。素材と人に向き合う姿勢が味を決める!”について、ほんの断片ですがご紹介してみましょう。
料理は段取りと先読み
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料理は段取り8分と言われるように、必要なものと手順を確認して開始されます。何を先に切るか、どのタイミングで火をつけるか等、レシピにはすべてのタイミングが記載されているわけではありません。先を読みつつ、体が自然に流れるように調理が進行する一方で、使い終わった道具は次々と洗浄され、料理が出来上がる頃には試食に関わるもの以外は料理台に何も残っていないという状況になります。 |
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勉強会に参加する度に、母が存命中に「片付けながら料理をしなさい!」と、物が散乱しているのを叱られ、反発していたことを思い出します
素材の丁寧な扱い
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スープは、玉ねぎやニンジン、ジャガイモなど素材を刻むことから始まるのですが、その際、同じ大きさ・厚さにそろえます。火の回りが均一で滑らかなスープを作るために、「もっと注意深く切って!」と、総料理長は何度も声をかけておられました。また、野菜の種類によっては、アクや辛味、食感をよくするために、切った野菜を水につけるというひと手間も忘れてはいけません。 |
特にクレソンを用いる際には、苦みの除去に“茎を湯がく”というレシピ上のひと手間を勝手に省いてはいけないと注意がありました。カブを用いる際に皮を厚く剥くのは、筋っぽさを除き、えぐみをとる・火の通りをよくすることでスープの味を引き出すのだそうです。美味しいスープに仕上げるには、注意深く、手間を省かず、素材をぞんざいに扱うべからず!です。
旨味を引き出す蒸らし炒め
刻んだ野菜は、無水鍋で「蒸らし炒め」を行い、その旨味を最大限に引き出します。最初に油と少量の塩で炒めたのち蓋をして、加水されていない野菜本来の濃縮された水分に、細胞壁が壊れて得られる甘味と油で香を引き出します。焦がさないよう火加減を調整しつつ、時には蓋をあけて薫りの変化を嗅ぎ、ニンジンなどの色合いやテカリの変化を目で確かめ、最後に熱さを我慢しながら、自分の指でつぶしたり食べたりして火の通りを確認するという五感の作業が愚直なほどに繰り返されます。蒸らし炒めの時点で火の通りが均一でなければ、スープのなめらかな触感が得られないのです。
へたくそほど、道具をそろえる!とは申しますが、高級な鋳物ホーロー製の無水鍋は、ステンレス製と比較して、同じ量の同じ素材、同じ調理法で同時に開始した場合、温まるまでにこそ時間は要しますが、一旦温まれば火の通りがよく、結局のところかなりのタイパになり、なにより出来上がったスープの旨味の明確な違いは本当に驚きでした。
口当たりをよくするミキサーと裏ごし
蒸らし炒めのあと、温めたブイヨンや牛乳(豆乳)等を足し、ミキサーと裏ごしをかけて、スープの口当たりをまろやかにし、最終的に味を調えてスープは完成します。ミキサーは、空気を巻き込みすぎれば風味を損なうので、低速で開始して泡立ちを抑えながら高速へと段階的に回して均等に砕きつつ、音を聞きわけながら、かけすぎに注意をはらいます。ミキサーや鍋に残った材料は、残しておいたブイヨンで溶かし、材料を無駄なく使いきります。次に、ミキサーにかけたペーストをザルとお玉で裏濾しをします。調べたところお玉は丸く、ザルの曲面にぴったり沿って均一な力で押しつぶせるため、無駄が出にくく、なめらかな仕上がりになるのだそうです。
最後の味を決める塩ですが、地産地消と対費用効果を検討するため、沖縄、天草など5種類の塩を舌で味わって比較する実験に遭遇したことがあります。産地によっては、苦みがとても強く感じられたり、甘味があったり、塩味が全く異なりました。塩を吟味して料理するという栄養課の皆様の細やかな努力も知りました。
すべては食べる人のために
一般に、料理で大切なのは、①安全・衛生への配慮②素材への敬意③段取り④食べる人への思いやりといわれていますが、おそらくは美味しく食べさせたい!が必須条件なのでしょう。
普段、仕事から帰っての自身の夕食は、ついつい“やっつけ仕事”になりがちですが、勉強会に参加すると“丁寧な生活”を促される思いで背筋が正されます。「いのちをささえるスープ」、それは時に命を削るような思いすら感じられるほど丁寧な気遣いの手仕事であり、その料理は繊細で美味しく身体に優しい!食べる人の目と舌を想う愛情にあふれています。
あとがき
私にとって勉強会は、「素材の量は色のバランスを考えて!ニンジンが多すぎたら彩りが悪いでしょう?段取りが悪くて炒めすぎ!一生懸命作ったものは、出来あがりを待ってすぐ食べて!」など、一瞬一瞬に口うるさかった母との約60年余りの日々がよみがえる時間にもなっています。








