HOLISTIC HEALTH JOURNAL

ホリスティックヘルス ジャーナル

セルフケア

散歩だけではマズイ?健康寿命を延ばすために本当にやるべき運動とは

目次

  • ウォーキングは最高の健康法のひとつ
  • 有酸素運動の限界?
  • 速筋(白筋)の重要性
  • 健康寿命を延ばすカギは速筋(白筋)の強化!
  • まとめ

 

 

 健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことを意味します(参考:厚生労働省)。

一般的に「寿命」と言うと平均寿命を指すことが多いですが、ここ最近は健康寿命が着目されるようになりました。長生きしたいと考えている方は多いと思いますが、出来ることなら健康を保ったまま何も制限されずに長生きしたいですよね。年々、健康志向が高まり、普段から「運動」に取り組んでいる方はたくさんいると思います。そんな運動の中でも無理せず気軽に行える散歩=ウォーキングを日課にしている方は多いのではないでしょうか。大変すばらしいことですね。ただ、健康寿命という観点から考えると、実はウォーキングだけでは不十分なのです。今回の記事では、どうしてウォーキングだけでは不十分なのかを解剖生理学に基づいて解説しながら、おすすめの運動をご紹介したいと思います。

 


 

ウォーキングは最高の健康法のひとつ

 

筆者はウォーキングを否定するつもりは全くありません。むしろ非常に優れた運動であるため実践するべきだと考えています。まず下肢や骨盤周辺ならびに肩甲骨周辺(腕を振るので)の筋力の向上・維持が期待できます。また酸素を多く取り込む運動であるため心肺機能の改善が見込めます。加えて、セロトニンやエンドルフィンといった生きる意欲を高めたり、癌を抑制するNK細胞を活性化したりする生きていく上で欠かせない重要なホルモンを分泌してくれる働きもあります。さらには、有酸素運動を行うことでBDNF(脳由来神経栄養因子)という脳の海馬の神経細胞を増やす非常に優れたタンパク質が合成され、認知機能の改善効果があることも報告されています(参考:認知症はこうしたら治せる)。筆者もよくウォーキングやランニングに普段取り組んでいますが、終わった後は頭がとてもスッキリします。とにかく気持ちが良いですし、思考が冴えわたります。「心身が健康になっている」という実感が湧いてきます。実践されている方は共感できる部分が多いのではないでしょうか。健康を目指すには外せないツールのひとつであることは間違いありません。

 

 

 

 


 

有酸素運動の限界?

 

非常に多くのメリットがあるウォーキング。ただ筋肉を鍛えるという点に着目したとき、実はウォーキングには限界があります。解剖生理学の話に移りますが、人間の筋肉は大きく分けて3つの筋肉に分類することができます。意志とは関係なく動く平滑筋心筋、自らの意志で動かせる骨格筋です。平滑筋は血管や胃・腸の壁、心筋は文字通り心臓そのものを指しますが、今回注目するのは人体に400以上も存在している「骨格筋」です。骨格筋には姿勢の保持や身体の可動、循環やエネルギー代謝といった多くの役目があります。その質や量が、健康に直結するといってもよいでしょう。無論、ウォーキングもこの骨格筋を使って行われています。骨格筋という言葉を聞いたことがある方は多いと思いますが、更に2つに分類することができるのをご存じでしょうか?ずばり「遅筋(赤筋)」と「速筋(白筋)」に分かれます。以下の図①をご覧ください。

 

 

図①:骨格筋の特徴(参考:医歯薬出版-生理学第3版)

 

 

そこまで力を必要とせず同じペースで力を発揮し続けるウォーキングなどの“有酸素運動”では持久力に優れている遅筋(赤筋)が主に活躍しています。反対に短距離走や重量挙げなど瞬間的に大きな力を必要とする“無酸素運動”では速筋(白筋)が主に作用します。泳ぎ続けているマグロやブリなどの赤身魚、普段はじっとしているヒラメやカサゴなどの白身魚を例に挙げると、赤筋=遅筋と白筋=速筋のイメージが湧きやすいかと思います。ここで一番お伝えしたいのは、ウォーキング=有酸素運動では、遅筋(赤筋)は鍛えられるが、速筋(白筋)は鍛えることが難しいということです。

 

      

 


 

速筋(白筋)の重要性

 

さてここで、日常生活において遅筋(赤筋)と速筋(白筋)が働く場面を想定してみましょう。

まずは遅筋(赤筋)が主に働きそうな場面です。

 

・台所や洗面所に長時間立ち続ける

・背もたれが無い椅子に座り続ける

・買い物でショッピングモールを歩き回る

・文章を書くためにペンを握り続ける

 

 

 

 

次は速筋(白筋)に着目してみましょう。

 

・床やベッドから起き上がる、または立ち上がる

・段差の昇り降り

・ペットボトルや瓶の蓋を開ける

・買い物袋やごみ袋、布団などの重い物を持ち上げる

・バランスを崩したときにとっさに足や手を出して踏ん張る

 

 

 

 

 

では、衰えた場合を想像してこれらを少し比較してみましょう。遅筋(赤筋)を見てみると、持久的な要素が含まれる場面が多いですよね。これらは衰えたとしても、休憩を挟んだり、杖や押し車などの補助具に頼ったりすれば何とかなりそうな気がします。しかし速筋(白筋)はどうでしょう。衰えてしまえば基本的な動作能力の低下や転倒リスクの上昇を招き、生活に大きな支障が出そう気がしませんか?実は、加齢により萎縮していく骨格筋の中でも、遅筋(赤筋)は衰えづらく、速筋(白筋)のほうが優位に筋萎縮をきたす(参考:Disuse syndorome[廃用症候群] と Sarcopenia-Geriat Med,42,Ishikawa A)ということが分かっています。実際に筆者が働いている介護施設や病院の現場には、一人での生活が困難かつ危険なために家族の介助や介護サービスが必要不可欠なご利用者様や、転倒による骨折で入院する患者様が数多くいらっしゃいます。原因を紐解くと、上記で挙げた速筋(白筋)が主に働く場面がままならなくなっていることが多く見受けられます。筆者自身、速筋(白筋)の重要性を痛いほど感じているところです。速筋(白筋)は我々が生活していく上で非常に重要度が高い筋肉であるといえるでしょう。

 


 

健康寿命を延ばすカギは速筋(白筋)の強化!

 

では、いよいよ結論です。今回のテーマの本当にやるべき運動とは、ずばり速筋(白筋)を鍛える運動です。簡単に言うと「筋トレ」であり、途中でも述べた無酸素運動のことを指します。重ねてお伝えしますが“健康寿命”とは制限なく日常生活を送ることができる期間のことです。日常生活を制限なく送るには、「起き上がる・立つ・座る・歩く・ふらついても立ち直る」といったある程度の基本的な動作能力が求められます。それに必要なのが“瞬発力“です。瞬発力とは瞬間的に大きな力を発揮する力のことを言いますが、文字通り大きな力を発揮する運動を行うことが肝になります。ダンベル、重錘、ゴムバンド、マシンなどを使って負荷をかけてもいいですし、スクワットかかと上げ運動懸垂上体起こしなど自分の体重を上手く使う運動でももちろん大丈夫です。ウォーキングを習慣にしている方は、最中に早歩きダッシュを取り入れてみるのもいいかもしれません。多くの方が数回~数十回、数十メートルが限界でしょう。これらのようにすぐに限界が来る運動=無酸素運動を意識して実践することが、速筋(白筋)の割合を増やすことに繋がっていきます。

 

  

 

さらに、歩行速度が速い人や、握力が強い人は、健康寿命が長いという研究も数多く報告されています(参考:Lancet. 2015、omron Health care Japan.Vol140)。速く歩くためには腓腹筋というふくらはぎの筋肉を使って地面を強く蹴る必要がありますし、強く握るためには前腕屈筋群や手内在筋といった手の筋肉の強い収縮が必要です。いずれも速筋(白筋)が大きく関与する動作であることから、速筋(白筋)と健康寿命の長さには相関があることは間違いないでしょう。

 

また速筋(白筋)は、身体機能面だけではなく、糖代謝にも大きな影響を与えます。日本の死因第2位である心疾患(参考:厚生労働省2023年)の大きな原因ともいえる動脈硬化。この動脈硬化のなかでも最も深刻だといわれているのがアテローム動脈硬化ですが、その大きな要因の一つに高血糖があります。上記の図①を改めて見て欲しいのですが、速筋(白筋)のエネルギー源は「糖質」であり、シンプルに筋肉量が多いほど糖の代謝が促されるのです。動脈硬化が予防できれば健康寿命がさらに延びるかもしれません。

 

 


 

まとめ

 

いかがだったでしょう。解剖生理学的に深掘って見てみると、筋肉の作用や運動にも種類があることがお分かりいただけたでしょうか?衰えづらい遅筋(赤筋)と衰えやすい速筋(白筋)。高齢になるに連れて身体能力が低下するのは速筋(白筋)の衰えが大きく関係していました。すなわち高齢になるほど瞬発力を要する無酸素運動の必要性が高くなるのです。「散歩をしているから大丈夫」というお声をよく耳にします。ウォーキングなどの有酸素運動はもちろん大切な運動ですが、無酸素運動も積極的に取り入れていけたら、もっともっと健康に近づけるかもしれませんね。

 

 

金子 亮介

金子 亮介(かねこ りょうすけ)

現職:みゆき園デイサービスセンター 機能訓練士

熊本保健科学大学リハビリテーション学科を卒業後、整形外科病院に3年間勤務。外来、一般病棟、急性期を兼務し臨床経験を積む。主に股・膝・肩関節、腰部、頸部等の疼痛や機能障害に対して徒手療法や運動療法を用いた治療、人工関節や半月板損傷の術後ケアに従事。その後、御幸病院に入職。外来・回復期病棟にて2年間実務を重ねた後、現在籍のみゆき園デイサービスセンターに着任。要介護・要支援者に対して個別機能訓練の実施、サービス担当者会議への参加、認知機能に関連する研究への取り組み、自事業所の定期刊行物のコラムの執筆など幅広く活躍中。医療福祉の大部分のフェーズに実際に触れることで身に付けた高い視座を基に、地域の人々のADL・QOL向上を何よりの使命と考え日々研鑽に励む。