HOLISTIC HEALTH JOURNAL

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医療

第七四回 東洋医学療法の紹介コラム57薬膳茶⑥中国茶の歴史

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中国茶の歴史

 

日常生活に欠かせないお茶(中国茶)は、誕生から長い歳月を経て、中医学の理論を基に茶文化として発展してきました。また、貿易の発達により世界中に広がり、定着していきました。

 

 

文化としての茶

 

中国では商の時代(紀元前1700~紀元前1100年頃)にはすでに、「4月に茶を摘む」という記録があり、周の時代(紀元前1066~紀元前168年)には「茶を貢ぎ物として朝廷に捧げた」という記録が残っています。

後漢の時代になると巿場で茶葉を買い、煎じてから飲む習慣が定着してきました。

また唐の時代(618~907年)には、寺では「午後は食事をとってはいけない」という規則ができたため、茶室を設置してお腹を空かせた僧侶たちのために茶を提供するようになりました。このことが信者たちにも影響を及ぼし、茶がさらに流行しました。

このような背景のもとで、陸羽(りくう)は「茶は努力・端正・節約など徳のある人に最も適切な飲み物である」と述べ、茶を飲むことは上品な行為だとされるようになりました。「茶(ちゃ)経(きょう)」によって、茶を飲む行為は「礼・仁・雅・和・静などの精神を表す」という今の茶道にも通じる、ひとつの文化としても栄えるようになったのです。

 

 

薬としての茶

 

茶が長い歴史を経てこれほど広まった理由は、茶がもっている多くの働きにあります。中国古代の文献には次のようなエピソ一ドがありました。

神農という人物が薬を調べるために山々を歩いて回り、さまざまな草木を試食したときに、多くの毒にあたって巨大な茶樹の下に倒れてしまいました。すると茶葉に留まっていた露が口元に垂れてきて、神農の開いた口に流れ込み、その雫(しずく)を飲んだために命が助かったそうです。 

この話からもわかるように、茶は解毒薬としても利用されてきました。

後漢の時代(25~220年)の書物には、茶には「気持ちを楽しくする」「心を安らかにして気を養う」「イライラやのどの渇きを止める」「熱毒邪に侵された下痢を治す」「利尿」「痰を取り除く」「身体を軽くして若さを保つ」「長期間飲むと瘦せる」「脂肪を取り除く」「飲み過ぎ・食ベ過ぎを治す」などの効果があるという記録が残っています。        

清代(1616~1912年)の『本草(ほんぞう)求(きゅう)真(しん)』(編:黄宮綉(こうきゅうしょう))にも「茶には甘味があり、寒の性質をもつ。肺に入って身体にたまっている痰飲を溶かしたり、心の熱毒を清したり、脂肪を排泄したり、宿食を解消したりする効能がある。よって、食積・頭がボーッとする・よだれが垂れる・大小便の不調・消渴・吐血・鼻血・血便・火傷などの症状に有効である」と書かれています。このように、茶は薬として長く使われていたことがわかります。

 

 

茶の普及

 

茶葉は南北朝時代(439~589年)に中国から東南アジア、インド、朝鮮半島、日本、ヨーロッパへ輸出され始め、次第に世界中に広がっていきました。

17世紀のイギリスではポルトガルからチャ一ルズ2世に嫁いだキャサリン王妃の美しさの秘密が紅茶にあることがわかり、上流階級から庶民まで紅茶を飲む習慣が広がりました。フランスでもはじめ紅茶は身体に有害なものとみなされていましたが、ルイ14世の頭痛が紅茶で治ったことから流行するようになりました。

今では、茶は健康に最もよい飲み物として日常的に利用されており、地域によって飲む習慣も違います。中国の広東省・福建省・雲南省・貴州省では、烏龍茶や普洱茶をよく飲み、浙江省・北京では龍井茶をよく飲みます。ジャスミン茶は緑茶と茉莉花をベースとして作られたよい香りの茶で北京ではポピュラーな茶として好まれています。

 

 

参考文献

 

 

  • 関口善太著.〈イラスト図解〉東洋医学のしくみ.日本実業出版社,2003
  • 辰巳洋著.実用中医薬膳学.東洋学術出版社,2008
  • 平馬直樹・浅川要・辰巳洋著.オールカラー版 基本としくみがよくわかる東洋医学の教科書.株式会社ナツメ社,2014
  • 辰巳洋著.薬膳茶のすべて.株式会社 緑書房,2017
  • 仙頭正四郎著.最新 カラー図解 東洋医学 基本としくみ.株式会社西東社,2019
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王 暁東

王 暁東(おう きょうとう)

現職:御幸病院 漢方研究室 主任研究員

経歴

【経歴】
5代続く中医学医師の家庭に生まれ、幼少の頃より家族から中医学の基礎を教わる。
1993年 河北医科大学中医学院中医学部大卒
総合病院中医科中医師(中医総合科)として勤務                       
1997年 熊本大学医学部第二生理学科に入局、脳・免疫科学の知覚生理学を専攻
2002年 熊本大学大学院医学研究科修士博士連合課程卒 
医学博士取得(西洋医学)
2016年 南京中医薬大学中医学院に入学、中医学臨床基礎・経方(漢方)医学を専攻
2019年 南京中医薬大学博士課程卒
医学博士取得(中医学) 
2004年~ 中国南京中医薬大学 客員教授
2014年~ アメリカ自然医学研究院 研究員
2020年~ 中国河北中医薬大学 客員教授
1999年~ 御幸病院および複数の医療機関に中医師・研究員・講師として勤務

【資格】

・医師(中国国家資格・中医師)
・医学博士(中国・中医学)
・医学博士(日本・西洋医学)
・自然医学療法医師(アメリカ自然医学学会)

【学会役職】

・世界中医薬学会聯合会 経方専業委員会 副会長
・世界中医薬学会聯合会 治未病専門委員会 常務理事
・日本中医協会 副会長