HOLISTIC HEALTH JOURNAL

ホリスティックヘルス ジャーナル

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転倒と脳の関係

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みなさん転倒したことはありますか?または周りに転倒された方はいらっしゃいますか?筆者は高齢の要介護の方々が多く通うデイサ-ビスで活動していますが、「昨晩、自宅トイレで○○様が転倒」「庭で転んで肩を打った」など毎週のように転倒というワードを耳にします。図1のグラフを見てください。厚生労働省が実施した国民生活基礎調査¹⁾によると、介護が必要となった原因の第位に“骨折・転倒”が挙がっています。約100万人の方が、転倒を機に要介護もしくは要支援者になっているのです。

 

 

何も生じない、もしくは打撲や擦り傷程度で済めばまだいいですが、「骨折」となると手術や入院を余儀なくされます。入院は年齢が高く、在院日数が多いほど、生活機能の低下を招きやすいことが指摘されており²⁾、実際に入院を経て、身体面・認知面の機能が低下する多くのご利用者様を目の当たりにしてきました。人生を一変させるリスクを孕んでいるのが転倒だといえます。

 

なぜ転倒するのか?

 

ずばり答えは「脳機能の低下」だと筆者は考えています。高齢になると転倒が増えるイメージは湧くかと思いますが、小さな子どもの頃を思い浮かべてみましょう。1~2歳で歩きだしてから、小学校低学年ぐらいまで、よく転ぶ姿を見かけると思います。膝小僧のすり傷が懐かしいですよね。人間は、  

転びやすい子どもの時期転びづらい大人の時期転びやすい老人の時期

をたどるということです。

実は人間の脳神経の発達というのは、低次な機能を司る部位(延髄や脊髄など)が先で、あとから高次な機能を担う部分(大脳など)と決まっています。「シナプス刈り込み」といって、脳神経が整理され完全に成熟するのは20歳ごろ³⁾とも言われています。一方、年を重ねることによる脳神経の解体(衰退)は、発達とは逆の方向性を示し、複雑な高次神経系から単純な低次神経系へと進むことが分かっています。脳が発達真っ只中の子どもと、解体に差し掛かってくる高齢者、転倒というのは脳の発達と解体が関連していることが考えられます。

 

注意機能が転倒に影響している

 

高次機能発達の中でも最も成熟が遅く、最も解体が早い器官は、脳の最高中枢⁵⁾と呼ばれる前頭葉であることが明らかになっています。前頭葉というのは、抽象的に物事を考えたり、未来のことを考え計画を立てたり、複雑な動作を可能にしたり、感情を抑制したりと、いわゆる“人間を人間たらしめる領域”であると言われています。機能は多岐にわたりますが、今回注目して欲しいのは注意機能です。

「○○しながら○○をする」

「焦点を○○から○○に切り替える」

「〇〇をし続ける」

などが注意機能にあたりますが、前頭葉の前頭前野と呼ばれる場所が中心的に担っていることが分かっています。そこで、興味深い研究があります。

Lundin-Olssonらは

“歩行中に話しかけると立ち止まる人ほど、転倒しやすい” 

という報告⁶⁾を行いました。二つのことを同時に行うと片方もしくは両方のパフォーマンスが低下することを専門的に二重課題干渉といいますが、これはまさしく注意の低下による現象であり、この研究は転倒二重課題干渉の相関を示したものといえます。歩く】+【話を聞く】という二つの課題を処理する能力=注意機能 が低下している人、すなわち、注意を司る前頭前野が十分に機能していない人ほど“転びやすい”ということを指しています。実際の現場においても、この傾向を肌で感じています。

図2は筆者のデイサービスご利用者における年別にみた骨折・入院者数の推移です。これまで専属のセラピストの在籍がありませんでしたが、令和4年から理学療法士の筆者が所属となり、専門的な機能訓練の介入の成果もあってか、なんとか減少傾向に転じさせることができました。特に令和6年は喜ばしいことに大幅に減る結果となりました。

 

しかし、結果を紐解くと、転倒し骨折・入院された方の5名とも全員が重度の認知症であったことが分かりました。中には筋力は良好で普段は一人でスイスイと歩かれる方も含まれていました。この結果からも、脳が転倒に影響しているということが、より示唆されるのではないでしょうか。

 

まとめ

 

図1で要介護・支援となる原因の第3位が「転倒」であるとご紹介しましたが、第1位、第2位を見てみると、「認知症」「脳血管疾患」となっています。本稿では、転倒は脳の影響が大きいことをお伝えしましたが、包括すると第1位~3位までが全てが原因である実態が見えてきます。日本の介護費用は介護保険制度が開始となった2000年度から年々増加をたどっており、令和6年度は11兆9381億まで膨れ上がっています⁷⁾。転倒予防をはじめ、介護予防の根底はいかに脳を健やかに保つかだと筆者は痛切に思っています。

もちろん筋力があって関節が柔らかくて、身体機能が良いことに越したことはありません。しかし、どんなに体が衰えても転ばない人は転ばないし、どんなに体が元気そうな人でも転ぶ人は転ぶという現実も目の当たりにしています。

ぜひ転ばないために、脳のトレーニングや注意機能にも意識を向けてみてはいかがでしょうか?

 

【参考文献】

(1)国民生活基礎調査:厚生労働省(令和4年度)

(2)一般病院に入院中の高齢患者における生活機能の変化に影響する要因: 相川 みづ江(日本老年看護学会誌16巻2号3)

(3)ヒト前頭前野の発達と進化:滝沢籠(日本生物学的精神医学会誌23-1, 2012)

(4)臨床神経心理学-公認心理師カリキュラム準拠-(医歯薬出版)

(5)前頭葉のしくみとはたらき:渡邊正孝(高次脳機能研究 36-1)

(6)“Stops walking when talking” as a predictor of falls in elderly people:Lillemor Lundin-Olsson (1997)

(7)介護保険費用・介護報酬改定・保険料・利用者負担の推移(内閣府)

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金子 亮介

金子 亮介(かねこ りょうすけ)

現職:みゆき園デイサービスセンター 機能訓練士

熊本保健科学大学リハビリテーション学科を卒業。
整形外科病院に3年間勤務。外来、一般病棟、急性期を兼務し臨床経験を積む。その後、御幸病院に入職。外来・回復期病棟にて2年間実務を重ねた後、現在籍のみゆき園デイサービスセンターに着任。

資格

理学療法士

所属学会

日本神経心理学会
日本認知症予防学会

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