HOLISTIC HEALTH JOURNAL

ホリスティックヘルス ジャーナル

セルフケア

人が変わることはなぜ難しいのか

人が変わることはなぜ難しいのか

 

先日、大変嬉しい出来事がありました。それは息子が自転車で公道デビューしたことです。子供の成長を感じる幸せな瞬間でした。息子は、今年11歳で自転車が乗れるようになるには早くはありません。しかし、私と妻は大喜びしました。なぜなら、彼が自転車で公道デビューするまでには、4年の歳月と、血のにじむような努力があったからでした。

 

                                     

河川敷での猛練習

小学一年生の時、自転車が欲しいというので購入しました。それから、自宅近くの河川敷で休日に練習をしました。不器用で根気がないところがあり、途中で諦めてしまうのではないかと心配しました。実際、数えきれない程の転倒と怪我をしましたし、なかなか上達がみえず、心が折れそうになっていました。息子を、褒めたり励ましながら、自転車購入から半年ほどで河川敷のような広い所では乗れるようになりました。

しかし、自転車で出かける様子はありません。あの努力を無駄にしないように、乗るように声を掛けますが「自転車には、一生乗らない」と言います。理由は、転倒や道を走ることが怖いとのことでした。親としては将来、自転車に乗れないことで困るのではないか心配しました。

 

  4年の沈黙経て、公道デビューした息子

それから4年間、自転車は物置に眠っていました。それが先日、物置から自転車を引っ張り出そうとしているのです。何をしているのか尋ねると「自転車で友達と遊びに行ってくる」と言います。私はこのチャンスを逃してはいけないと思い急いでタイヤに空気を入れ、送り出しました。

以来、彼は、友達と遊ぶときは自転車に乗って出かけています。行動範囲が広がり、いろんなところへ行って楽しんでいるようです。なぜ自転車に乗ろうという気持ちになったのかを聞いても「走るのが面倒になった」面倒くさそうに言い、自転車に乗れるようになった感想を聞くと「まあ普通」と多くを語らない息子です(笑)。

 

  なぜ息子の行動は変わったのか

人間の意識や考え方が変わり行動や習慣が変わることを行動変容といいます。友達と遊ぶのに公道を自転車に乗っていくようになったこともその一つでしょう。彼の公道デビューするまでの行動変容を考察してみます。

 

人が行動を変容する過程は、図に示す5つのステージを通るといわれています(行動変容ステージモデル)。彼にとってこの4年間は、無関心期~準備期に該当したのではないでしょうか。彼は「転倒や道を走ることが怖い」を乗り越え、それでもなお移動手段としての自転車を選択したのです。自転車を手に入れ、自転車に乗ることは出来るようになった。しかし彼にとって移動手段として自転車は重要ではなかったのだと思います。

 

人が行動や成果を求められる状況下において、「自分は必要な行動をとって、結果を出せる」と考えられる力をセルフエフィカシー(自己効力感)と言います。息子は「走るのが面倒になった」と言っていましたが、それだけではなく、友達の影響を受け、彼らと行動を共にしたいという思いが高まり動機づけに繋がったのではないか思います。失敗と成功、それから得られる経験を得て、息子は自転車に乗ることができるようになったのだと思います。

 

 

  動変容ステージモデル

無関心期:問題行動に対して気づいていない、または変える必要がないと考えている段階。

関心期:問題行動に対して認識があり、変えることを考え始める段階。

準備期:変化を実行するための計画を立て、具体的な行動を考え始める段階。

実効期:実際に行動を開始し、問題行動を減らすための具体的な取り組みを行う段階。

維持期:新しい行動を継続し、再び問題行動に戻らないようにする段階。

  セルフエフィカシー(自己効力感)

セルフ・エフィカシーとは、ある行動をうまく行うことができるという「自信」のことをいう。人がある行動へのセルフ・エフィカシーを強く感じていると、その行動を行う可能性が高まると考えられ、セルフ・エフィカシーを高める主なポイントとしては、「成功経験」と「代理経験」が挙げられる。

 

 

 人が変わることの難しさ

人間は自分にとって良いことでも悪いことでも、本能的に変わることに抵抗を感じます。変化には不確実性が伴い、そのために安全を感じられなくなることもあるからです。人々が行動変容に成功するためには、目標を小さく設定し、少しずつ変化を取り入れることが効果的といわれていますが、当時のかたくなな彼にとってそれは効果的ではなかったかもしれません。

 

この4年間の間、彼は、友達が自転車で移動する中、一人走っていました。走っているところを想像すると不憫でなりませんでした。たとえ目標を小さく設定していたとしても、息子が自転車に乗る楽しさを知り、自信を持って乗れるようになるまでに時間と経験が必要だったのだと思います。

おそらく友達も息子のペースに合わせて待っていてくれていたのでしょう。また、これは後になって知りましたが、友達に自転車に乗ることを勧められ、励まされていたようです。行動が変わるには周囲のサポートやポジティブなフィードバックも重要です。最後に、いつも息子と一緒に遊んで勇気づけてくれた友達と、一緒に練習する思い出をくれた息子に感謝です。

 

目標を小さく設定し少しずつ生活習慣の改善に取り組むことについては「“頑張らない戦略で“で生活習慣の改善 リバウンドのないダイエットをご参照していただければ幸いです。

 

宮崎 幸太郎

宮崎 幸太郎(みやざき こうたろう)

現職:みゆきの里 産業保健師

15年の臨床保健師・看護師経験あり、2022年よりみゆきの里の産業保健に携わる。産業医と連携し、職場巡視や健康診断の計画・実施。健診実施後のフォロー面談、ストレスチェックなどのメンタルヘルス支援を行っている。産業保健師として、働く人がやりがいを持って働くことができ、働くことで健康になる職場づくりを心がけています。
健康診断や人間ドック、職場環境の改善や生活習慣病等についてのご相談はお任せください。

資格

保健師、健康運動指導士、人間ドックアドバイザー、健康経営エキスパートアドバイザー